不妊治療を考え始めると、最初に出会う大きな分岐点が「人工授精(AIH)」と「体外受精(IVF)」の選択です。
「まずは自然に近い方法から……」と思う反面、「年齢的に時間を無駄にしたくない」という焦りもつきもの。今回は、日々ラボで命と向き合う胚培養士の視点から、2つの治療法の成功率・費用・負担のリアル、そして年齢に応じた戦略的なステップアップ案を徹底解説します。
1. 【比較表】人工授精 vs 体外受精、本当の違いは何?
最大の違いは、動画でもお伝えした通り「受精が体の中で起こるか、外で起こるか」です。2022年4月の保険適用以降、窓口負担はどちらも3割となりましたが、総額には差があります。
| 比較項目 | 人工授精 (AIH) | 体外受精 (IVF) |
| 受精の場所 | 体の中(自然に近い) | 体の外(ラボのシャーレ内) |
| 1回あたりの妊娠率 | 約5〜10% | 約20〜40% |
| 自己負担額(3割) | 数千円〜3万円程度 | 約10万〜20万円以上 |
| 身体的負担 | 少ない(数分で終了) | 大きい(採卵・自己注射など) |
| 保険適用の制限 | 回数・年齢制限なし | 年齢・回数に上限あり |
2. 「35歳」と「40歳」で変わる!戦略的ステップアップ術
不妊治療において、時間は何よりも貴重な資源です。統計データに基づくと、年齢によって「1つの治療にどれだけ時間をかけるべきか」の基準が変わります。
■ 35歳未満:じっくりステップを踏む
まだ時間の猶予があるため、体の負担が少ない方法から順に進めるのが一般的です。
- タイミング法・人工授精: それぞれ6回(約半年)程度が目安。
- ポイント: 合計1年程度試して結果が出なければ、早めに高度医療を検討しましょう。
■ 35歳〜39歳:スピード感が命
卵子の質の変化が始まる時期。「見切り」の速さが成功の鍵を握ります。
- 人工授精: 3〜4回(約3〜4ヶ月)で見極める。
- ポイント: 累積妊娠率は4回目以降、頭打ちになる傾向があります。「半年以内に結果が出なければ次へ」というルールを夫婦で決めておきましょう。
■ 40歳以上:最初から体外受精も選択肢に
妊娠率の低下と流産率の上昇が顕著になるため、時間との戦いです。
- 戦略: 人工授精の成功率は数%(約2.4%)まで下がります。最初から体外受精を選ぶ、あるいは人工授精を行うとしても1〜3回以内に留めるのが医学的に推奨されます。
3. 35歳以上で「人工授精」から始めるのはアリ?
「成功率が低いなら、最初から体外受精がいいの?」と思われるかもしれませんが、35歳以上でも人工授精からスタートするメリットはあります。
メリット
- 心身のハードルが低い: 手術や麻酔が不要で、仕事を休まずに続けやすい。
- 経済的な安心感: 保険適用で数千円から受けられるため、まずはここから、という納得感を得やすい。
- 特定の原因に有効: セックスレスや軽度の男性不妊、精子が子宮に入りにくいケースには非常に有効です。
注意すべきリスク
最大の敵は「時間のロス」です。人工授精を漫然と10回、20回と繰り返している間に、卵巣の予備能が低下してしまうのが一番避けたいシナリオです。
胚培養士からのアドバイス
35歳以上で人工授精を始めるなら、「期限(回数)」をセットで決めることが不可欠です。
「3回やってダメなら、迷わずステップアップする」という覚悟が、最終的な妊娠への近道になります。
4. 納得できる治療選択をするために
不妊治療は「正解」があるものではありません。しかし、データに基づいた「基準」を知ることで、迷いを減らすことはできます。
- 卵管が詰まっていないか?
- 精子の状態はどうか?
- 自分たちの「期限」はいつか?
これらを主治医としっかり話し合い、夫婦で納得して進むことが、後悔しない治療へとつながります。

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